インド (アグラー)
世界一美しいお墓
夜行列車で約24時間。早朝にデリーの少し下、アグラーに着いた。アグラーと言えば、世界的に有名なタージ・マハルがある町だ。列車にはインド人観光客の家族連れも多く、みんなぞろぞろと歩いて目的地タージ・マハルへ向かっている。駅からタージ・マハルまでは約3km、時間はまだ早いので私もインド人に混じって歩き出した。大通りには整然と街路樹が植えられ、緑に交じってブーゲンビリアのピンク色の花が咲き乱れている。小学生のスクールバスがネクタイをしたジャケット姿の子供達を拾っている。食堂ではモーニングメニューの看板を表に出して準備をしている。オムレツ、トーストにエッグ。インドでは3食ともカレーしか無いと思っていたが、ここではカレーが見当たらない。まるでイギリスの片田舎の雰囲気である。
タージ・マハルは城壁に囲まれているので、外からは見えない。正面入り口の大きな門が開くには少し時間がありそうだ。インドの記念物の公開時間は日出から日没までがほとんどである。これなら時計が買えない人や時計を持たない私にもわかりやすい。でも曇りの日は困るけど。
チケットを買って門をくぐると、朝もやに霞んだタージ・マハルが真正面に浮かんでいた。数年来見たいと思っていた物が目の前にあると思うとしばらく前に進む事が出来なかった。門から建物までは数百m。距離があるから意外と小さく見えるが、四方の塔は43m、本体は67mと20階建てのビルの大きさである。これが全て白大理石。そしてこれは、城ではなく全てが王妃の墓なのである。太陽が昇り日が照りだすと白大理石は更に白く輝きだした。その日私は一歩も動かないまま日没まで最初の門の近くで座っていた。
朝もやに霞んだタージ・マハル、太陽の光を反射しながら輝くタージ・マハル、真っ赤な夕日に浮かぶタージ・マハル、月の光を浴びてシルエットが綺麗なタージ・マハル。全てを計算し尽くされているかのようである。こんなお墓を建ててもらった王妃はどんな美人であったのであろう。そして3日間も連続で墓参りをしてしまった。
白大理石には唐草模様、コーランや人物画が画かれている。これらは大理石を花模様等に堀り、色の付いた石をその形に削ってはめ込んでいる。近くで見るとルビーやサファイヤ等の宝石がふんだんに使われている。だから、所々で盗難にあって宝石だけが抜き取られている部分もある。
満月の夜の前後4日間は、夜12時まで門が開かれている。丸い満月をバックにタージ・マハルのシルエットは太陽の光とはまた違った雰囲気を漂わせていた。 ※現在、夜は入場できないそうである。ただし、近くに高層ホテルが出来たのでそちらに泊まるといつでも見られる。
文、写真 寺島